人身傷害保険と対人賠償責任保険の関係等

2022-03-22

最高裁平成24年2月20日判決

「被害者に保険金を支払った保険会社は、保険金請求権者に裁判基準額に相当する額が確保されるように、保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」

【解説】

わかりやすく説明いたします。

損害賠償訴訟上の総損害額  5,000万円
人身傷害保険の算定額  2,000万円
被害者の過失

 20%(相手方に対する損害賠償請求の認容額は
 5,000×80%=4000万円)

このような事例で、人身傷害保険金を請求せずに、裁判を提起した場合には、認容額は、5000万円−(5000万円×0.2)=4000万円となります。

他方、先に人身傷害保険金の請求をして、2000万円が支払われた場合には、どのように考えるべきでしょうか。この点に関しては、以下の考え方があります。

まず考えられるのは、加害者に対する損害賠償請求金4000万円から受け取り済みの2000万円を差し引いて、2000万円、これを加害者に対して請求できるとする説です。

この場合、最終的に、被害者の方は、人身傷害保険から2000万円、加害者から2000万円の合計4000万円が受領できます。

しかし、この説だと、人身傷害保険を掛けた意味が無くなってしまいますね(加害者から4000万円を受領できるわけですから、あえて人身傷害保険を掛ける意味が乏しくなります)。

次に考えられるのは、保険金は、過失相殺される1000万円から優先的に充当され(つまり、加害者には本来請求できない自身の過失部分に相当する金員から優先的に充当され)、その結果、本来加害者に対して請求可能である4000万円に関しては、1000万円のみが差し引かれる、つまり、人身傷害保険社は、既払い金である2000万円から1000万円を差し引いた1000万円を代位取得し、結果、被害者の損害賠償請求権は、損害認容額4000万円から人身傷害保険社が代位取得する1000万円を差し引いた3000万円を加害者に対して請求できる、という説です。

そうすると、被害者の方は、人身傷害保険としては2000万円を受領し、加害者に対しては、3000万円を請求することが可能となります。これは、つまり、被害者の方は、自身の過失部分も含め、損害全額5000万円の回収が可能となるということであり、人身傷害保険を掛けていた大きな意味を見出すことが可能となります。

この説を訴訟基準説と言い、上記判例も同様の説示をしております。

※以上はかなり大雑把な説明です。

 

 

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